白央篤司の独酌ときどき自炊日記Ⅱ

フードライター、コラムニスト。暮らしと食をテーマに執筆しています。

鎌倉で昭和映画散歩 旧・里見弴邸と『珈琲 井川』

4月もそろそろ終わりという頃、鎌倉を訪ねました。

取材をお願いしたいお店があったので、下見を兼ねて。向かう道の途中では藤が盛りで、いいもの見られたなあと。藤を見かけるたびに思いますが、熊蜂(くまばち)ってのは藤が好きですね。大きな丸っこい姿で、懸命に藤の蜜をよく求めている。性格はおとなしいと聞きます。

 

お店への下見と挨拶を済ませたのち、旧・里見弴(さとみとん)邸を訪ねました。

作家である里見氏のかつての自宅で、今はサロンとして公開されているのですが、4月いっぱいで休館になると聞き、一度訪ねておきたかったのです。

 

小津安二郎監督との交流の深さはつとに知られ、『秋日和』だったかの打ち上げパーティはたしか里見邸の庭で行われたはず。

(『彼岸花』『秋日和』は里見氏が原作クレジットになっています)

 

ああ、この屋敷に小津さんや原節子さんもかつて来て、談笑したのだなと思うと感慨深いものがありました。建造は大正15年、状態はあまり良くなく休館もやむなしという感じでしたが、実際を見て触れることができて、よかったです。

 

 

高床式の和室部分は昭和4年の建造だそう。

庭には見事な臥竜梅もありました。小津さんたちが訪ねてた頃はどのくらいの背丈だったのか。

 

この日はほどよく曇って歩きやすく、散歩日和。

ずっと行ってみたかった『珈琲 井川』にもはしごしたんです。松竹の映画スターだった井川邦子さんの営んでいた喫茶で、現在も引き継がれて営業中。

 

店内の雰囲気が、本当によかった……。

昭和映画の中に入り込んだような気持ちになれました。うれしかった。井川邦子さんは小津の『麦秋』で原節子さんの同級生や、木下惠介監督の『カルメン故郷に帰る』で佐野周二演じる音楽家の先生の妻を演じている人です。

 

お店に置かれていたスナップより。

井川邦子さんは88歳までお店に立っていたんですよ」、と従業員の方が誇らしげに教えてくれて、撮影を許してくださいました。

 

アイスカフェオレも、おいしかった。。

 

鎌倉は晩春の花盛り。

いいときに行けたもんです、思い立ったが吉日ですね。これはナニワイバラという花のよう。

 

今回は食い気や酒は無し、鎌倉で昭和映画散歩の回でありました。