白央篤司の独酌ときどき自炊日記Ⅱ

フードライター。郷土の食、栄養、暮らしと食をテーマに執筆しています。連絡先→hakuoatushi416@gmail.com 著書に『自炊力』『にっぽんのおにぎり』(理論社)、『ジャパめし。』(集英社)など。メシ通『栄養と料理』『ホットペッパー』などで執筆中。

【長編】長野県・松本市の思い出

さて、昨日に引き続き長野県・松本市の思い出を。

起きてまず向かったのは、国宝・松本城。宿から10分もしない近さでした。朝の6時、空にまだぼんやり昏さが残っています。

 

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おお、だんだんと見えてきました。城を囲む松本城公園、朝のウォーキングに励まれる人が多かったです。

 

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右のほうの石垣に、白い点々があるのわかります?

 

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白鷺の群れなんです。ときおり、羽音をたてて水上を行くさまが見られました。

 

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こちらが正面になるのかな。黒っぽい色合いから「烏(からす)城」の異名もあるそうですが、烏の濡れ羽色なんて艶っぽい表現を思い出させる壮麗さ。

 

しばし、たたずむ。

堀からはポチャンと鯉のはねる音がしたり。

 

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赤い橋の下にはオシドリが羽を休め、石垣には白鷺、朝雲に烏。

来てよかったな。

 

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散歩の途中、あちこちで見かけたのがシュウメイギクです。今が盛り、はなやかに群生していました。昭和27年(1952)から続く、花いっぱい運動というのがあるよう。地域のみなさんが育てられている花がとても多かった。園芸好きとしては、散歩が特に楽しかったですよ。

 

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シュウメイギクには桃色のものも。

 

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ザクロは今にもはじけんばかり。

 

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さて、城の近くには総掘という堀がありました。かき小屋があったのにはビックリ。

 

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この堀沿いに素敵な古い建物が並んでいるんですよ。奇しくもみな医院でした。

 

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こちらなど『はいからさんが通る』って感じですね。そして塀が和で、建物が洋。

 

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個人的に好きだったのがこちらのたたずまい。何年か前に閉院したとの張り紙がありましたが、玄関脇にのヤツデはきれいに世話がなされていました。

 

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この「午後」を「午后」と書いてあるの、いいですよね。「曜」が日に玉なのも。

 

 

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総堀沿いではありませんが、このお宅の感じも好きだったなあ。そしてこのまま後ろをふり返るとですね……

 

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この光景が広がっているんです。眼前にたたずむのはもちろん、先ほどの松本城。毎日天守閣が目の前にあるんだなあ。

さて、もう7時だ。ホテルのモーニングの時間なので、いったん戻ります。

 

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 こちらが一泊した『松本ホテル花月』の正面玄関。ロビーがとてもきれいなホテルでした。

 

 

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 朝食バイキング、充実の内容!

 

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塩イカが食べられて、うれしかったです。塩漬けにして海から運ばれたイカは、長野で食べられてきたもののひとつ。同じように、塩漬けにされたブリを正月の雑煮に使ったり、塩サバ、塩引きジャケを食べる食習慣も。昨日講演に来てくださったお客様からも「塩イカはよく、野菜と和えて食べますよ」と聞いたばかり。スーパーでパックで売られているのも目にしました。

伝統食材が地元ホテルで食べられるの、旅行者としてはうれしいですね。松本市は地産地消がとても進んでいる印象です。 

 

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うーん…欲張りすぎた。(;^ω^) おいしかったんですよ、いずれも。特にがんも煮、フワフワでよかったなあ。ふりかけは名物の野沢菜&ワサビでした。

 

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ドリンクバーのこれ、いいでしょう? 

 

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松本は水の都、散歩しているとあちこちに井戸があって、自由に飲めるようになっていたのも印象的でした。「水めぐりの井戸整備」が市の事業にもなっています。

 

 

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こんな湧き場もよく見かけました。滔々として、水量がなんとも豊か。松本駅を出ると「岳都」と彫られた石碑がありましたが、山々に囲まれてこそのこの水資源。いつまでも残りますように。

さて、チェックアウトは11時。朝食の腹ごなしに、もういちど散策へ!

 

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ホテルから歩いて5分もしなかったかな。喫茶『まるも』に移動です。

 

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慶応4年から続く旅館『まるも』の一部で、喫茶部分の建物は昭和31年に建てられたそう。「松本民芸家具の創立者・池田三四郎設計」と、ショップカードにありました。

 

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店内にはクラシックが流れていて、使われているのは松本民芸家具。

 

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これ、レコードなんですよ。リヒテルのバッハがありますね。

 

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カフェオレをいただきました。

うーん…光の感じといい、なんだか市川崑の映画の中に入りこんだような。旅情あふれることこの上なく。しかし、こういうときにひとりゆっくり思索にふける…なんてことができない粗忽者なんです、私は。雰囲気をたのしんで、店を後にしました。

 

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女鳥羽川(めとばがわ)を渡って、

 

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大きな柳の木がある松本市役所を過ぎ、

 

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松本神社前のご神木を過ぎて(すばらしい巨木でした)、

 

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行ってみたかった、旧開智学校へ。

重要文化財に指定されている、我が国最古の小学校のひとつ。明治6年(1873)開校。調べてみたら、泉鏡花が生まれた年でした。鏡花はどんな学校で学んだのかなあ。

 

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公開時間である9時少し過ぎに着きましたが、この写真を撮ったときはちょうど誰も周囲におらず、しばし建物と独りきりで対峙することができました。

 

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正門部分のアップ。

 

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館内はストロボをたかなければ撮影可能。これ、なんだと思います?

 

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党のてっぺんについている、東西南北をあらわす風見鶏的なもの。おもしろいですね。

 

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展示されていた大正7年の国語読本より。蓑(みの)が現役だったんだよなあ。

 

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訪ねて、よかったです。私はこの窓枠、そして白壁の感じが一番心に残りました。

 

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 そしてまた、秋の花々。

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ムラサキシキブという植物の果実、きれいに色づいていました。 

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旧開智学校から歩いて5分、市の文化財「高橋家住宅」に来てみましたが、残念ながら館内設備不良で休館。17世紀前半の武家屋敷、見たかったな。また来ます。

 

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松本は歴史ある建物、蔵も多いまちでしたが、こんな感じの、私が「子どもの頃になじんだ景色」も点在していました。 角から今にも昔の友人が小さい頃のままに飛び出してきそうな。こういったものものは保存の対象にならないけれど、私は土地の財産だと思います。

 

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市の公営住宅、カッコよかった。。。

 

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さて、ホテル近くに戻ってきました。こちらの『パンセ松本』はパン屋さん。うーん、昭和初期のフランス帰りの芸人さんみたいな名前だな。

画家の 牧野伊三夫さんが以前、『クウネル』という雑誌で連載されていた「マキノ旅行社」というエッセイで紹介されていて、行ってみたかったのです。

 

オープンしたての店内は、三角巾姿の女店員さんが忙しそうに動き回っていました。みなさん、なんというか…威勢がよかったな(笑)。活気に満ちていました。

 

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何を買うか迷いに迷い、名物の味噌パンを購入。

 

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帰宅してトースターであたためて食べたら、表面がカリカリして香ばしくて、とてもおいしい。もっと買ってくればよかった。群馬の名物にも味噌パンがありますが、だいぶ違うタイプですね。もっとも松本市内でもいろんな味噌パンがあるよう。惣菜パン、菓子パンもかなり地域の独自性が出るアイテムです。

 

 

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そうそう、おみやげといえばこちらも。

地元のかたにおすすめしていただいた『開運堂』の白鳥の湖というソフトクッキー。スペインの招福菓子、ポルポローネを原型とするそう。パフッとした食感が独得で、柔らかくもすぐに溶けて消えるというのでもなく。淡い甘さが印象的でした。お抹茶にも合いそうだな。

 

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帰りの電車まで、さらにまちをうろうろと。こちらは建築関係の会社だったかな。

 

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そのはす向かいには、純和風の建物。お料理屋さんで『田楽 木曽屋』というお店でしたが、おりしも火曜定休。郷土料理店ということでぜひ伺いたかったのですが、またの楽しみにします。

 

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本当に歩いていて飽きないんですよ、風情のある建物が多くて。市の中心部は先の戦火を免れたと聞きます。

 

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先の『田楽 木曽屋』のすぐ近く、『上原善平商店』という竹細工の専門店です。店内には、かごやざるがたくさん積まれていました。2つほど小さなざるを購入。

 

さあ、歩き回っていたらもうお昼だ。きょうはカレーを食べますよ。

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女鳥羽川を越えて、中町通りにある『カレーの店 デリー』へ。ここも地元のかたにおすすめされました。メニューにインドチキンカレー、ビーフ、ポークとある中で私が選んだのは…

 

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カニコロッケカレー(800円)です。写真は「ごはん半分」とお願いしたもの。連日食べ過ぎですからね。

黄色みがかったルーがなつかしい。甘めの優しい、昔風の味わい。

 

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ぽってりしたクリームがみっちり詰まったカニコロッケにも大満足。カリカリの衣がだんだんとルーに交じって柔らかくなりつつあるところを食べるの、好きなんですよー。カニコロッケが2つのって、観光地の目抜き通りにあって800円という値段もいいなあ。店員さんも温かで、いい昼餉になりました。

 

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店内もムードがあるのですよ、ここ。水曜定休&不定休、ランチのみで売り切れ終い。次に松本を訪れたときにもご縁がありますように。

ごちそうさまでした。

  

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さてこの中町通り、土蔵造りの店が立ち並び、そぞろ歩きが楽しいところ。写っているのは有名な『ちきりや工芸店』で、松本民芸品ほか全国の工芸品を扱われています。値段が手ごろだったので、ちいさな小鹿田焼の小鉢を買いました。

 

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帰宅してから、さっそく使いました。大根の葉っぱのナムルを盛っています。

 

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『ちきりや工芸店』、紙袋もかわいい。

 

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『陶片木』というショップでも気に入った品と出合えました。手頃な値段のうつわ、箸などの小物類がそろっています。竹の菜箸と白磁の小鉢を購入。お店のかたがとてもフレンドリー。

 

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お願いして、店内を撮らせていただきました。

 

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片隅には長毛種の猫が。とてもカメラ慣れしてるんですよ(笑)。モデルさんのように動じない。

 

なんだか今からでも松本、また行きたくなっちゃったな。

知人で移住してしまった人がいるのですが、ちょっと気持ちがわかったような。

 

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松本駅前の『信州地酒の館 中島酒店』にまたも寄って、シードル(リンゴのお酒)小瓶を2本おみやげに。そして駅売店で長野ワインと長野地酒のカップ酒も購入。信州のお酒のいっぱい買って帰りました。長野はリンゴの名産地、シードルづくりも盛んです。かなり甘め、きりり辛口の対照的なタイプを選びました。おいしかったですよー。

 

 

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1時間やりくりして、長野駅で降りて善光寺も初参り。滞在時間わずか1時間。(;^ω^) あわただしかったけれど、やっぱり寄ってよかった! なんと見事な楼門だったことか。しかし牛にひかれることもなく速足で駆けたので、ちょい疲れました(笑)。

 

まだまだ松本の魅力的な写真たくさんあるんですが、とりあえずきょうはここまで。ジャズ喫茶『エオンタ』のことは別の機会につけます。鶏レバーのパテ、絶品でした。

 

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最後に、柳越しの松本城を。