白央篤司の独酌ときどき自炊日記Ⅱ

フードライター。郷土の食、栄養、暮らしと食をテーマに執筆しています。連絡先→hakuoatushi416@gmail.com 著書に『自炊力』『にっぽんのおにぎり』(理論社)、『ジャパめし。』(集英社)など。メシ通『栄養と料理』『ホットペッパー』などで執筆中。

アンバサダーとしてマカオ旅行、1日目。

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 人生、予想だにしないことが起こるから面白い。

ツイッターをいつも楽しみに拝見しています。マカオに旅して、ハクオーさんが現地で見つけたもの、味わったもの、楽しんだものを発信していただけませんか」

 そんな内容のメールが来たのは今年の初めのこと。面食らった。正直に書くが、マカオという地名は知ってはいたがそれ以上の知識は何もない。ギャンブルというかカジノで有名なんだっけ…。どこにあるのか、それすらも知らない体たらく。

 日本の郷土料理やローカルフードについて調べていきたい、という思いからここ10年以上は国内旅行しかしてこなかった。お金と時間ができたら、日本各地を旅して食の売り場、生産の現場を目にしていきたいと決めていた。その私に、マカオへ行けと。

「日本の郷土料理をフカボリしているハクオーさんの視点が興味深かったんです。同じ視線でけっこうですので、アンバサダーのひとりとしてマカオを旅していただけませんか?」

 マカオ政府観光局の代理人というそのひとが属する会社は、日本でも名の通ったところ。支度金として交通費含めた雑費も先に振り込んでくれるという。

 よし、マカオについては無知もいいとこだが、貴重なチャンスに乗らせていただこう。それにしても神様は不思議なことをなさる。

 

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 5月22日(水)

 いやー、まいったな。

久しぶりに『地球の歩き方』なんて読んだら、文字が小さくて読むのがつらいんである! 頭の中で渡辺謙が「細かすぎて読めなァい!」と叫んだ。しかしながらハズキルーペは買わず。

 成田空港に来たのはいつ以来だろう。海外出張慣れしているツレがウェブチェックインしてくれていたので実にスムーズだった。ウェブチェックイン、おすすめ。おや、搭乗口そばの売店象印の炊飯器が売られている。なんとハズキルーペまで売られているではないか。買う人、いるんだろうなあ。

 16時発のエアマカオ、直行便で行くことにした。香港経由でバスでマカオ入りする方法もあるが、英語や中国語もできず機械オンチの私としては、バスの手配がちょっと面倒そうだったので。

 マカオは時差が1時間遅れ、約5時間のフライトで、現地時間20時に到着となる。離陸して2時間ぐらいで機内食出るので、空港でしっかり食べないほうがいい。魚をお願いしたら、白身魚や厚揚げにみそあんがかかったものが出てきた。ごはんはなかなかおいしい。さらに炭水化物でのり巻き、そうめん。うーむ。

 

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 蒸しあつい……というのが降り立って最初の正直な感想。それもそのはず5月のマカオは雨季なのだ、降られなかっただけ良しとしよう。タクシーを拾ってホテルに向かう。海の上の長い長い橋を渡る間、カジノ群のネオンが向こうに見える。あざやかな電飾の城々は壮麗この上なくまさに「不夜城」という感じで、心が揺れてときめいた。実にあやしくうつくしく非現実的で、橋を渡りながらアジア映画の中に入っていくような気がした。写真があまりにもお粗末でマカオに申し訳ない。

 

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 空港からタクシーで1200円しないくらい、ホテルは新岸口というエリアにあった。マカオの通貨はパタカ、このとき1パタカ=13円ちょい。香港ドルが同時に使える。

パタカはマカオでしか使えないので、香港ドルに両替するといいよ。パタカは旅行中に使い切ってくること。あとマカオはそこらじゅうで両替できて、現地のほうがレートいいから成田で5千円ぐらいだけ両替していったら。到着して一銭も現地の通貨持ってないと不安でしょ。

 

トラベルライターの先輩のアドバイスに従った。

タクシー運転手との会話は英語だったが、さっぱり英単語が出てこない。でも仕事で来てるんだし、可能なかぎり取材もしたい。下調べしてきた名物料理のあれこれを「よく食べる? 好き?」などと聞いてみた。30歳ぐらいの活きのいい男のドライバーは私の下手な発音が聞き取りにくいようだったが、がんばって答えてくれた。

 

多謝。

 

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 チェックインを早々に済ませ、外出。この時点で20時40分ぐらい、時間がもったいない。そりゃ治安も心配だったが、少し歩き回って早々に安心。地元の人、それも女性ひとりや若い子が「普通に」歩いている。観光客もみなリラックスしたものだ。結果的に3泊4日、昼夜問わずまち歩き中に危ないこと、不安になるようなことは一度もなかった。もちろん、私の場合だけれどね。

 上の写真はホテル近くにあったカジノ。ムーランルージュは各国にあるんだなあ。そうそう、カジノの近くには質屋さんがあることも。ギャンブル代がなくなった客が行くんでしょうね。

 

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「押」という文字が質屋のマークなのだそう。開けてはいけないドアを押してしまいそうだ……(笑)。 ちなみに私、まったくもってギャンブルには興味なし。それでも3泊4日、退屈を感じることはなかった。逆に時間が足りなかった、胃の消化時間がまだるっこしかった。アンバサダーだから言うわけじゃなくてね、そこは信じてください。

 

 

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 治安よりも、気をつけるべきはスクーター。利用率がとても高い。上の写真は大きな道路だが、細い路地が多くて、けっこう急に切り込んでくることも。ただ「歩道から出ない」を守っていれば平気。これは日本も一緒だね。観光してるとついつい写真を撮りたくなって車道に出たくなっちゃうんだ。そういうとき、ご用心を。

 

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 ホテルの近くに24時間スーパーを発見、早速チェック。いきなり寿司や海苔巻きのパック、刺身の詰め合わせと対面して驚いた。ガリまで売られている! 思わず近くにいた現地のひとに「寿司、よく食べるの?」と訊いたら逆に不思議そうな顔で「ええ。なんで?」と聞き返されてしまった次第。

 

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 三日間マカオを歩いていくつものスーパーをめぐったけれど、どこでも当たり前のように寿司コーナーがある。必ずウナギ寿司があるのも印象的。

 

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そして寿司コーナーの隣にドリアンが山積みにされているのを見たときは、「旅に出たなあ…」と感慨もひとしおに。日本では絶対に見られない光景だね。ちょっとしたパラレルワールド感は、旅の醍醐味のひとつだ。

 

 話が逸れまくり、先のスーパーの話に戻ろう。

 

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 マカオ名物、エッグタルトが2つで16パタカ、200円ちょい。エッグタルトはスーパーやコンビニ、カフェ、パン屋さんやらあちこちで売られている。

 マカオは1999年までポルトガル領だったので、食文化にもその名残が強い(ちなみに現在は中国の独立行政区)。スーパーではポルトガルワインもよく売られていた。ビールでよく見かけたのは青島、ハイネケンバドワイザー、韓国の「hite」というビールなど。先のスーパーにはオリオンビールも売られていた。総じてあっさり飲みやすいのが好まれるんだな。多湿だとそうなるか。ええ、スーパードライもありました。

 

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「Blue Girl」というビールもよく見かけたな。もともとドイツビールなのだが、現在では韓国で製造されているそう。さほど軽くなく、香りが良かったように記憶。

 

 マカオはじめ中国のひとは、暑くても冷やした飲み物を摂らない。ミネラルウォーターは常温で売られていることが多かった。ゆえにスーパーのビールも一応冷蔵されてはいるが、設定温度は低い。寝酒派は買いおきして、ホテルの冷蔵庫で冷やしておくのをおすすめする。

 

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 先にも書いたけど、ドリアンは本当にあちこちで見かけた。フルーツ売り場の面出しトップといっても過言ではないほどに。切ってパックになったものも多いが、そんなに香りはきつくない。ラッピングがしっかりしているのかなあ。

 

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 あるスーパーの広告。

こう書くのか、というのが分かって興味深い。ザクロやスイカは一緒ですね、紅石榴に西瓜。アボカドが牛油果、というのが表してるなあ。マンゴスチンが山竹というのにちょっとびっくり。

 

 さて、夜ごはんはどうしようか。スーパーの弁当がうまそうで惹かれたんだけど、せっかくだからどこかに入りたい。

 

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 とにかく蒸し蒸しするので、「涼面」の文字に惹かれて(面=麺)こちらのお店へ。涼面といっても常温の和え麺だけど、ラー油とトマトがきいててうまい。たしか35パタカ、455円ぐらい。

 

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ご主人夫婦、あったかい感じのおふたりだった。英語はほぼ通じないけれど、なんとなくのやり取りで成立。マカオは基本的に広東語と聞くが、北京語でもいける感じだった。とはいえ私は「謝謝」と「無問題」しか言えない。「ハオツー(おいしい)」も言えるか。一生懸命「辛いの大丈夫か」と訊いてくれた(と思う)。ゼスチャーでパクチー大盛りにしてもらい、最後に記念撮影。

 

 中国各地の料理店、マカオ半島の各地にあふれんばかり。高級店もあるけど、食堂とか屋台的なカジュアルな店が多く、どこも安い。みんなサクッと食べてサクッと帰る。コンビニの店頭にもスタンドがあって、軽食をサク食べする人をよく見かけたな。『自炊力』、マカオでは売れなさそうだ(笑)。

 

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本日の寝酒は青島ビール

 

おやすみなさい。