先日のこと。
普段は行かない、自宅から遠いスーパーに足を伸ばしたんですね。探してる食材があったのですが、それはともかくも帰り道。ちょっと道に迷ったら目に留まったのが「因業屋」の暖簾。その風情……!
「美瑛の新そば」と貼られており蕎麦屋さんであることは察せられますが、しかし気になる店名ですねえ。
日を改め、早速たずねてみました。
カウンターの向こうには白髪をぎゅっと後ろにしばったご主人がおひとり。
「お好きなところへどうぞ」とおだやかな笑顔に内心、ホッとしました。いや、やっぱり「因業じじいがいるのかな……」なんて思うじゃないですか(笑)。
「あははは。そう思う人多いんでしょうね。30年ちょっとこの店やってますけど、店名が店名だから入りにくくて、という人やっぱり多いですよ」
とはのちほどのご主人の談。
カラッとよく晴れた秋の昼、まずはビールをオーダー。
「冷蔵庫から好きなの取ってください。うちはセルフです!」
開けてみればエビスやプレモルの中瓶、青島ビールなど外国産の小瓶が詰まっていました。ほかにワインボトルもあれこれと。
おつまみとお酒のメニュー。ハウスワインは山梨県笛吹市のルミエールワインとな。
店内のいたるところにワインボトルがあるんですよ。
「蕎麦とワインって合いますからねえ」とご主人。50代も後半ぐらいだろうか…?
揚げそば、香ばしくて実にいい。お酒を頼むと出してくださるようです。
おつまみで頼んだ「鴨つくね」(2本で500円)と、
「いわし」(300円)。
たっぷりネギの下に、ごくごくやわらかく炊かれたいわしが1匹。ひとり1皿頼みたくなる。「いわしそば」というメニューもあるのですが、これが載っているようです。
ワインでもよかったけれど、いわしと合わせたくなり日本酒に。
「どちらのお酒ですか」と尋ねたんですが「西のほうのお酒です」と言われてそれきりだったので、深くはお訊きしませんでした。
こういうとき、私は追いません。
ビールに日本酒と進んで気も大きくなり、また常連とおぼしきお客さんがぽつぽつ帰られ、ご主人の手が空いてきたようなので、店名の意味などをうかがってみましたよ。
「因業って本来はいい言葉なんですよ。仏教の言葉でね…」
と、教えてくださったのですが……ちょっと一度聞いただけではよく分かりませんでした。適当なこと書いて拡がるのもご迷惑なので、またうかがったとき、きちんと尋ねなおしますね。
お知り合いの奈良県のお坊様の揮毫だそうです。
とにかく店内の総てがご主人の趣味嗜好で統一されている感じ。こういうのに包まれるのはうれしいなあ。店をたずねる愉しみのひとつです。
ただね、それが「スキの無い感じ」ではないのです。むしろいろいろスキがあって、そこがまた心地よい。
アクアリウムっていうのかな、水槽が店内にいくつかあるんですよ。パピルスが育っていたりします。小物がたくさん置かれているけれど、掃除の行き届いた感じが気持ちいい。
ぼんやりと、ゆっくり飲む。
「当たりだったなあ」「来てよかったね」と言葉を交わし。
「生ハム、どうですか。ひと皿800円」
と、ご主人に声掛けされました。おすすめのよう。もちろん、いただきます!
こんなにたっぷり来るとは。800円でこの盛り……都心なら値段、3倍ぐらいじゃないかな。蕎麦まえに生ハム、初体験でしたがなかなかいいものですね。
そろそろお蕎麦も……と思い、「因業屋そば」をお願いしました。海苔と卵とじがのったぶっかけの蕎麦。「熱いの、冷たいの、ぬるいのとできますよ。おすすめはぬるいの」とご主人。もうここまできたらすべて従います。ぬるいので。
十割の蕎麦。ぬるいというか、熱々でないということで食べていて不満は感じず。蕎麦の香りがしっかりと漂い、幅はフィットチーネぐらい。 弾力はやわらかでとても食べよいものでした。しっかり量があるんだけど胃に軽いんだよな。
蕎麦湯の入れもの。
土屋典康さんという作家さんのものを多く使われているそうです。
お蕎麦のメニューはこちら。もう少し食べたくなり、もり蕎麦をお願いしました。
「半分まで食べたらあつもりにすることもできますよ。そのほうが蕎麦の香りを断然楽しめます」 とご主人。ぜひぜひ、それで。
つゆはやや甘めの感じ。
半分ほどいただき、 温めてもらいました。もっとほかほか湯気がのぼっていたのですが、私の拙い腕ではとらえられず。
うん、確かに蕎麦がより香る!
「十割だからできるんです。小麦粉入れてないから」再度温めても食感が悪くならない、的なことを仰られていたと思うのですが、ここも正確ではないのでとりあえずのメモ。しかし確かに、ゆで直しでコシが抜けた感じもなく楽しめました。
「冷たくする良さは食感。歯ごたえは冷たくするほうがいいですね。でも蕎麦の香りを楽しみたいなら断然あつもり。今は新蕎麦の時期だし、余計にね」
「お昼は3時までですから、ゆっくりしてください」
はい、とてもゆったりした時間を過ごせました…。いくつもの楽しさと新しい面白さ、経験させてもらいましたよ。
思わず見上げた天井。
ごちそうさまでした。
ふたりで8千円いかないぐらい、お酒はビール1本ずつと、日本酒を枡で計3杯。
店の玄関わきでスイレンが2輪見送ってくれました。川口市役所のそばでアクセスは決してよくないんですけれども、またすぐにでも遊びに来たいお店。今度はうどんと天ぷらを目当てに来てみたいと思います。