白央篤司の独酌ときどき自炊日記Ⅱ

フードライター。郷土の食、栄養、暮らしと食をテーマに執筆しています。連絡先→hakuoatushi416@gmail.com 著書に『自炊力』『にっぽんのおにぎり』(理論社)、『ジャパめし。』(集英社)など。メシ通『栄養と料理』『ホットペッパー』などで執筆中。

#料理本リレー

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ちょっと前に、SNSでリレーやバトンの類がはやりましたね。コロナ防止で外出を最小限に、と求められた間。もちろん現在も感染防止が大きなテーマなわけですが。

ともかく、そんな折にまわってきたのが「料理本リレー」なるものでした。主婦と生活社の編集さんが初められて、元・料理編集の山田友理子さんが私にまわしてくれたもの。自分にとって思い入れのある料理本を思い返すのは、なかなかに楽しいことでした。ブログにも転載させてください。

 

 

ソフィア・ローレンのキッチンより愛をこめて』
ソフィア・ローレン
1974年 サンケイ新聞社出版局

 

母の本棚にはたくさんの料理本があり、小さい頃からそれらを眺めるのが好きだった。この本はそのうちの一冊、イタリアの大女優ソフィア・ローレンによるレシピ本。母は映画『ひまわり』にいたく感動したらしいので、その影響で買ったのかもしれない。

 

ソフィアが妊娠休養中の無聊なぐさみでまとめた料理ノートがベースとなっているそうで、かなり本格的な内容。レシピはもちろん、折々で挟まれるエッセイがいい。

 

忘れがたい食の思い出として、第2次大戦中、母親が調達してきたしぼりたての山羊の乳を挙げている。
「毎朝、毎夕爆撃の危険にさらされながら生きていた」あの頃に「命を与えてくれた」ものだと。五臓六腑に広がったであろう乳の栄養、その温かみが伝わってくるかのようだった。作中のところどころで、飢えを知っている人の言葉だな、と思わされる。

 

もちろん、楽しさもいっぱいだ。「もしあなたがマストロヤンニのファンで彼に近づきたいと思うなら、彼の好物であるインゲン豆と豚皮の煮込みをマスターすべきです」なんてイントロのレシピ、素敵だねえ。ちなみにマストロヤンニは『ひまわり』の相手役。


今も健在の彼女。きょうは何を食べただろうか。

 


『おもしろいよ、アジアの調味料は』
ハギワラトシコ、平松洋子 著
2000年 マガジンハウス

 

大学時代、いきなりタイ料理にハマった。ちょっと中毒症状じゃないか、というほどに。現代なら「タイ料理沼の住人」なんて呼ばれただろう。まだ今ほど手軽にタイ料理は食べられず、レトルトやらで買える時代でもなかった。「そうだ、自分で作れるようになればいいじゃないか」と思ったのが、料理にのめり込むひとつのきっかけに。

 

当時「参考書」的に買い求めた本だが、今も定期的に読んでいる。開けば、あのころ読んで興奮した気持ちがよみがえる。聞きなれぬ調味料の数々、そしてそれらをなんとも自由に扱う平松さん、ハギワラさんのアイディアにもう…ワクワクしたなあ。「あなたはどう使ってる?」「それ面白いね、じゃあこんな応用もいいかも」的なやり取りがまた面白いんだ。

この後、私はベトナムにもハマり、鈴木珠美さんのレシピ本を熟読して実践したり、詳しい友人に習ったり。ああ、よみがえる我が料理史。

 

 

『全国から集めた伝統の味 お雑煮100選』
文化庁
2005年 女子栄養大学出版部

 

イタリアやアジアの食に興味をもって、あれこれ食べて飲んでの二十代、三十代。四十代にさしかかるころから、思いは日本へ。各地の郷土料理やローカルフードの面白さ、多様さよ。それらを知り、食べ、現地でお話を集めることが現在の活動の中心となっている。

 

お雑煮は地域の食嗜好や文化の集大成だ。この本は現地の人々の声、そして実際の写真を集めているところが貴重。プロが作ってスタイリングしていない生々しさと臨場感がある。ごく伝統的なものから、ハイブリッドというか、独自発展してるものまで収録されているのがいい。

 

郷土料理がどんどん一般的に作られなくなっている今、もっとも作られる郷土料理は雑煮である。どうか継がれていってほしいし、また同時にもっとカジュアルに正月以外にも雑煮が楽しまれてほしいとも願っている。