白央篤司の独酌ときどき自炊日記Ⅱ

郷土の食、健康と食をテーマに書いています。連絡先→hakuoatushi416@gmail.com 著書に『にっぽんのおにぎり』『にっぽんのおやつ』(理論社)、『ジャパめし。』(集英社)。2016年10月に『にっぽんのおかず』が発売になりました。3部作完結!

1/27 ショパンコンクールの入賞者によるガラ・コンサートへ

 

 

久々の、東京芸術劇場

 

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ひょっとしたら……20年ぐらいぶりかもしれない。

検索してみたら平成2年の開館だそう。もう26年も前なのか。

 

 

 

こちらの公演に行ってきましたよ。

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先のショパンコンクールの入賞者、1位から6位までのコンテスタントによるガラ・コンサート。1位は先日も埼玉で聴いてきた、チョ・ソンジンです。1週間と経たずにまた彼を聴くなんて、耳の贅沢をいたしました。

 

 

きょうはその感想メモ、演奏順です。食ネタはなし!

 

 
6位 ドミトリー・シシキン(ロシア)1992年生まれ

 

曲変更の知らせがあり、「ロンドハ短調」を彼は選んだ。

作品番号1、ショパン15歳のときの作品になるのかな。

 華やかな音、流麗なテクニック。うまいなあ。

けれど「ピアノのうまいお兄さん」という感じ。これからそのテクニックと音楽性が溶け合っていっていくかいかないか、ちょっと想像がつかない。

名教師ヴィルサラーゼに師事しているそうだけれど、彼女独特のきらきらとしたピアノの鳴らし方の片鱗は感じられた。あの銀の蝶がたくさん飛翔するかのような美しいピアニズムをぜひ受け継いでほしいものだけれど。

 

 

 
5位 イーケ・(トニー・)ヤン(カナダ)1998年生まれ

ショパンコンクール史上最年少での入賞を果たした彼、当時は16歳。

順位発表時はブルーのアディダスだったかのパーカーを着ていたような。まるで「修学旅行中の中学生」のようなあどけなさに驚いた。ジュリアード音楽院で勉強中という。

 

なんという素晴らしい音色をもっているひとだろう。

彼が「即興曲第2番」を弾き出したときは、思わず息をのんだ。デリケートでナイーヴで、単にうつくしいだけではない…聴くものをノスタルジックな気持ちにさせるような音。そしてこの曲へのアプローチがなんとも自然でスパンテイニュアスで、「ショパンが楽想に遊びながら作曲したときというのは、こういう感じだったのではないだろうか」なんて思ってしまった。ピアニストの演奏を聴いてこんな気持ちになるのは初。

 

後半の盛り上げとか曲のメリハリづけ、ぺダリングなど「発展途上」に思える点も多々あるのだけれど、とにかくその音、そしてまさにヴェルヴェットのようななまめかしいレガートを堪能。もう1曲、「スケルツォ3番」を披露。こちらはあまり印象に残らず。しかし…やはりなんといってもあの切ない音! 綺麗だった。 彼でラヴェルの協奏曲第2楽章を聴いてみたい。

 

 

4位 エリック・ルー(アメリカ)1997年生まれ

このひともまだ10代。のっぽでちょっとスキニーなほどに痩せているけれど、弱々しい感じはまったくしない。「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」を披露。このアンダンテ・スピアナートがすごく好きだった。

イーケ・ヤンとまたガラッと音の印象が変わる。こちらは清澄でクリアな感じ、飾り気はないのだけれど歌ごころがあって、あのシンプルにうつくしい右手の歌と左手のアルペジオを素直に表現していて、引き込まれた。装飾音のところの表現が実にこう…さりげない。それがとてもいい。あの歳で「どうだっ」というところが全然なくて、見事だなと思う。先生も良いのだろうけれど、人格なのだろうな。このひとはどんなバッハを弾くだろうとフト思ったり。

 

しかし残念なことにオケ版。これピアノ独奏のほうが好きなんだよなー。最後まで存分に彼に弾かせてあげてほしかった。アンコールに「24のプレリュード」から17番、これはなぜ選んだのか分からないぐらい練られていない印象。間延びして締まらない。

 

 
3位 ケイト・リウ(アメリカ)1994年生まれ

「3つのマズルカ op.56-1~3」を披露した彼女、今回の入賞者のなかで唯一の女性。カーティス音楽院に在学中。

 

すでにして内的世界、独特の表現語法を身につけつつある印象。どこか隔絶されたような世界を構築する能力に長けていて、音楽会らしい「スペシャルなものが始まる…!」というプレゼンテーションができるひと。これは重要なことだと思う。

しかしピアニズムはまだそこまで達していないというか、自分の弾きたいことを存分に描くだけで終わってしまっている。そこから「聴かせる」というコンサートピアニストとしての次のステップに移るためには何が必要なのか?

彼女はこれからどんなことを勉強していきたいと思っているのだろう。興味をひかれる存在ではある。何かやってくれそうな雰囲気があるというか。

op56-3のしめくくりなどちょっと「演劇的!」と思わせるようなドラマティックな音を奏でた。間の使い方がうまい。音楽的演出、才能だと思う。

今度はもっと華やかな曲を聴いてみたい。28日はコンチェルト1番を演奏した彼女、あの天国的にうつくしい第2楽章をどう表現したであろうか。

 

 

2位 シャルル・リシャール=アムラン(カナダ)1989年

唯一の1980年代生まれ…なんて言ったら怒るだろうか(笑)。今年で27歳、最年長入賞者で、写真などを見ると若く見えるアジア系が4人もいるだけに「引率の先生」っぽく思えてしまう。温厚そうな雰囲気があって、ずんぐりした体型のせいか現地では「テディベア」の愛称で呼ばれていたそうな。

 

私が今回、コンクールの動画配信で最もファンになったピアニスト。

 「ソナタ第3番」を弾き出した瞬間から、テクニックと音楽性が見事に融合しているのを感じる。これがプロとアマチュアの差だと思う。ああ、やはりさっきまでのピアニストはまだ「コンテスタントの音楽」なのだな、と思わされた。

しっかりと練られて完全に手の内に入っている感じ。一番印象的だったのが第3楽章、あのもの哀しく、枯れたメランコリーのある曲想がなんと見事に表現されていたことか。彼の精神的豊かさと音楽的な醸成を思う。技巧的な第2楽章や華やかな第4楽章の折々で20代らしい若さと熱情が見え隠れするのもいい。

 

ただ、このひとの弱さは「私を聴きなさいオーラ」が少ないことだ。途中でお客の気がふっと彼から離れてしまうような瞬間が少なからずあったと(彼は一生懸命音楽に専心しているのに!)。そういったオーラが少ないなら少ないなりの大成の仕方というものがあると思う。そこをうまく進んでいってほしい。将来はルプーとかシフのような存在になってほしいなあ。彼のシューマンをいつか聴いてみたい。5月に2回、日本公演があるよう。絶対行く。

 

 

1位 チョ・ソンジン(韓国)1994年生まれ

彼についてはこの間のリサイタルでたくさん書いたので、省略。「協奏曲第1番」を弾いたのだけれど、素晴らしかった。第2楽章がことのほか良くて、存分に歌ごころを示してくれた。そのへんが弱いと思っていたのだけれど、これは早合点だったかな? 今度はノクターンをじっくり聴かせてほしい。アンコールは英雄ポロネーズ。なにもそんな大曲じゃなくとも…と思うが、おとなの事情があるのだろうか?

 

あとは札幌公演のみ、彼ら6人が冬の北海道の美味にめぐりあえますように。

日本の食べもの、おいしいと思って帰ってほしい。