白央篤司の独酌ときどき自炊日記Ⅱ

フードライター。郷土の食、栄養、暮らしと食をテーマに執筆しています。連絡先→hakuoatushi416@gmail.com 著書に『自炊力』『にっぽんのおにぎり』(理論社)、『ジャパめし。』(集英社)など。メシ通『栄養と料理』『ホットペッパー』などで執筆中。

桂米朝さんのこと

 

 

 あのひとには、徳があった。

  品があるというのだけではなく、もっとあたたかで、大きくて。「高雅で俗で」ということを成したひとだと思う。
 私は落語というものの楽しさを、このかたによって知った。

 今頃は「『地獄八景亡者戯』のほんまはどないなもんやろか」なんて仰って、あちこち見て回っているのだろうか。

 

 パソコンに入れてあるCDをちょっとかけてみたら、胸がいっぱいになって涙が出てきた。著作はほぼ読んでいる。

 私は冗談ではなく、あのひとの書生になりたかった。二十代前半の頃に出会っていたら本気で頼み込んでいたと思う。事務所の雑用でもいいので、側においていただきたかった。

 

 米朝さんは、あの世にいったらまず真っ先に誰のところに行くのだろう。探求心旺盛な米朝さんのこと、三遊亭圓朝のところに駆け寄っていって「ずうーーっと訊きたいと思ってたことがありますのや」なんて質問するのじゃないだろうか。そして先に逝かれた絹子夫人が「あたしには目もくれず!」なんて笑って怒ってるような気がする。

  しばらくは聴けないなあ…。

 

  ありがとうございますとしか言えません。 合掌。

 

  白央篤司