白央篤司の独酌ときどき自炊日記Ⅱ

フードライター。郷土の食、栄養、暮らしと食をテーマに執筆しています。連絡先→hakuoatushi416@gmail.com 著書に『自炊力』『にっぽんのおにぎり』(理論社)、『ジャパめし。』(集英社)など。メシ通『栄養と料理』『ホットペッパー』などで執筆中。

山口百恵さんのライヴ映像に感じ入る

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昨日NHKで放送されていた、山口百恵さんの武道館ライヴ。1980年というから、もう41年前になるのか。といいつつ私は当時5歳、おぼろげに世間が騒いでいるのを覚えているぐらい。ラストにマイクをステージに置くのがあまりにも有名な、引退直前のパフォーマンス。たまたまチャンネルを変えてて目に入り、そのままずっと観続けてしまった。

 

うーーん……すごいものだなと。

陰か陽でいえば圧倒的に陰なのに大スターの華があるというアンビバレンツ。なにかこう「使命を帯びている感じ」がある。ツイッターをのぞけば並ぶ言葉がそろいもそろって「凄み」「貫禄」そして当時21歳という事実に驚く声。当時としても「山口百恵は年齢に似合わぬ風格」なんて言われてたのだろうか。

 

引退を悲しむファンの叫び、掛け声。それがMCになるとシンと止む。観客を黙らせ、耳を澄まさせる語りの力にまた感じ入る。しゃべり方としては単調なのに、重みがあるというのか、「湿り気」のある声でね。冬の割と暖かい日に降るぼた雪のような。そしてなにより「伏し目の美」だなあ、と。空(くう)を見上げてしばしあり、ふと目を伏せる。そのときにあふれ出るものの多さよ。なんていうんですかね、あの諦観というか隔絶された感じ。神格化されるのも納得の風情。

 

このライヴは彼女自身のプロデュースと聞いたのだけれど、最後の最後でファンに向かって語りかけるところ、「(みんなとの思い出は)絶対に消えることはないんです」と言う。普通なら、という言い方も変だけど「忘れません」と言いたくなるところ、言葉の選び方が違うなと唸った。やっぱり使命を果たしてどこかに還っていく感じ。マイクを置く、というのも自分で考えられたのだろうか。だとしたら演出家としても一流というか。

 

あの引き際を実際に現場で見たファン、熱烈なファンは終演後どんな思いだったんだろう。放心、脱力、完全燃焼のひとも多かったんだろうな。最後の鳴りやまない拍手と絶叫、これが喝采というものか。