白央篤司の独酌ときどき自炊日記Ⅱ

フードライター。郷土の食、栄養、暮らしと食をテーマに執筆しています。連絡先→hakuoatushi416@gmail.com 著書に『自炊力』『にっぽんのおにぎり』(理論社)、『ジャパめし。』(集英社)など。メシ通『栄養と料理』『ホットペッパー』などで執筆中。

五反田のもつ焼き「ばん」から中目黒の昔を思う

 

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 昔、中目黒に「もつ焼き ばん」という店がありました。
いま駅前にドーンとタワーマンションが建っていますが、あのあたり。一軒家で、夕方早い時間からおっちゃんがわんさか飲んでいて、まだ20歳ぐらいの私からしたら魔窟に見えました。かつての中目黒はそういう店が多かった。元々は小工場の多い町だったそうです。

 

 おそるおそる魔窟に入ったのは二十歳だったか。同級生の女子大生と行ったもんですからおっちゃんたちは大喜び。「これ食べなよ」とぬか漬けやらレバカツやらを差し出され、友人は逆浦島太郎状態に。あーいうおっちゃんたちはどこに消えたんだろう(祐天寺「忠弥」にいます)。私はあっという間に魔窟に馴染み、あるときは2階で80人ぐらいの宴会を企画したり。今は昔。2004年に「再開発」とやらが起きて、もろもろは消えました。

 

 そして昨日。五反田をふらふら歩いていたら「ばん」が元気に営業中。いまは五反田と祐天寺でご係累が名前を継いでるんだよなあ。久々に「ばん」のもつ焼き。味、変わらない。1本100円のおいしさ。あの情緒はないけれど、カウンターには変わらずおっちゃんがフジツボのように張り付いている。私もおっちゃんになった。ガンマGTPも上がった。はじめて来た頃はちょうど良かった塩加減が、ちょっと濃く思えた。

 

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 見えるものが変わってゆく。感じることが変わってゆく。後ろのテーブルでは20代前半ぐらいか8人飲み会。嬌声。かつての自分も未来の自分もいるような酒場。あと20年ぐらいしたら、私は隣の若い子にぬか漬けを差し出しているだろうか。