白央篤司の独酌ときどき自炊日記Ⅱ

フードライター。郷土の食、栄養、暮らしと食をテーマに執筆しています。連絡先→hakuoatushi416@gmail.com 著書に『自炊力』『にっぽんのおにぎり』(理論社)、『ジャパめし。』(集英社)など。メシ通『栄養と料理』『ホットペッパー』などで執筆中。

アンバサダーとしてマカオ旅行、3日目。

5月24日(金)

マカオ政府観光局のアンバサダーとして現地を旅してきました。マカオからの発信旅、3日目

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 あまぐもとマカオタワー。

 61階からバンジージャンプができるというマカオタワーはランドマークのひとつ。高さでいうと233メートルだそうで、バンジー目当てに訪れる観光客も多いらしい。私はそれはもうひどい高所恐怖症なので、バンジーと聞いただけで手に嫌な汗がにじむ。心ザワつく。結局、近づきませんでした(笑)。しかし……そんな恐怖の中にほんのちょっとだけ「やってみたらショック療法で恐怖症もなくなるかも」なんて気持ちもあるのだが、いやいや、やっぱり無理だ。

 マカオタワーのバンジージャンプは1回で4万6千円かかると聞く。それだけ払ってもスリルを体験したい人、少なくないんだな。

 そして5月のマカオはともかくも、ミスティだった。

 

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  朝の散歩でまず目指した聖ローレンス教会、16世紀中ごろの建物。写真を撮ったときは8時ぐらいで、うつくしい外観もさることながら、丹精された花々がいっぱいの庭になんとも心が安らいだ。いったい何種類の花が咲いていただろう。プルメリアハナキリンぐらいしか名前は分からなかったが、日本では見かけない花に旅先で出会えるのはうれしい。マリア像の足元に、落ちたプリメリアが数個捧げるように置かれていたのに心がなごんだ。庭では周辺の住民さんが静かに朝の体操を行っている姿も。

 

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  朝のお祈り。

 ドアから離れてちょっとズームで、撮らせていただいた。教会内、天井がまた素敵だったんですよ。マカオを旅したらぜひ訪れてみてほしい。

  教会のすぐそばには大きなブーゲンビリアの木があって、濃い紅紫色の花がこぼれんばかりに。近くにはがじゅまるみたいな大木もあり、ちょっと大昔の那覇の雰囲気に似たものを感じたな。なつかしい気分だった。

 聖ローレンス教会は海に近い高台にある。いまはビルやアパートが密集して見えないが、かつては海原が見渡せたそうな。ただ、時折吹きわたる風に潮気を感じる。もう行こうと階段を下りたら、蝉がいっせいに鳴きだした。

 

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 教会近くでパン屋さんを見つけ、朝食用にとポークチョップバーガーを購入。8パタカぐらいだったかな。 中国語だと「豬扒包」と書くこのバーガー、とにかくマカオ半島のいろんなところで売られている。店によって味つけもいろいろのようで、私が買ったのはとにかくシンプルだった。豚肉の揚げたのをただ挟んだだけ、バターとかマヨもぬられてない。でも不思議と食べ飽きないのだ。

 骨付き豚肉だったりレタスなどが挟んであったりするものもあるよう。次回またトライしてみたい。お店は出勤途中らしき人で行列ができていた。

 

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  聖ポール天主堂跡世界遺産のひとつで、マカオのイメージ画像に使われることが多い。「最も有名な場所」という人も多く、マカオを代表する観光地だ。ご覧のとおり、ファサードと呼ばれる壁面だけなんである。17世紀はじめごろに建築され、1835年の火事によって他は消失してしまった。

 

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 壁面前。たくさんの自撮り棒があちこちからニョキニョキと。ジドリボウという生き物のように思えた。
 

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 壁面から振り返るとこんな感じ。すぐ右脇は住宅で、いつもにぎやかだろうに大変だなと思ってしまった。ベランダ出るの気後れしそう。大きなお世話だが。

 

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  ファサードの隣には小高い丘の公園がある。頂上からはマカオを一望できるので、ぜひ登ってみてほしい。正面だけ見て終わりではあまりにもったいない。大砲台公園、通称「モンテの砦」は17世紀の要塞跡。かつては気象台も設置されていたそうだ。

 高いところからファサードを見下ろすとまた別の感慨がある。壁だけであることがよりよく確認でき、当たり前だが人々がどんどん小さく見える。ファサードそれ自体が「聖」と「俗」を分ける境界に思えてならず。ちなみにファサードの彫刻制作には日本人もスタッフとして加わっていた、という説があるらしい。もし本当だとして、17世紀にどんな経緯とルートでその日本人はマカオに流れついたのか。

 

 しばし、公園の写真をごらんください。園内では季節の花もたくさん見られましたよ。

 

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 手前が、かつて大砲台が設置されていた場所。なんだか歴史が迫ってくるような、昔の船が見えるかのような気持ちになった。ずっとグーグルマップで見ていたマカオを立体として、肉眼で把握することができてよかった。

 ひしめき合う集合住宅、あまたの窓と幾多のベランダ。きょうを生きるマカオの人々の暮らしがあの向こうにあるのだ。多文化が混在する面白さが濃縮された地、マカオ。そのパノラマが目の前に広がっている……!

 私は少なからず興奮していた。そしてその脇では現地の人々の朝の体操が行われており、50代ぐらいの女の人が5~6人集まって体を動かしている。太極拳みたいなのを一瞬想像したが、けっこうアップテンポなアジアンポップスであった。

 ちょっと混ざって運動しようかと思ったが、やめた。

 

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  公園からの帰り道に出会った、うつくしい勾配。もう少し降りた先に「猫を探しています。見かけたかたは電話ください」的なことが書かれた張り紙があった。中国語はできないが漢字でなんとなく意味が伝わってくる。「お礼はします!」的なことが赤い太文字で強調されていた。きれいな毛並みのチャトラだったな。どうか見つかっていますように。

 

食べもののことをまとめて

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 マカオ半島、ところどころに生ジュースのお店がある。蒸し暑さの中いただく西瓜ジュースは格別のうまさで、体の中の熱がスーッとひいていくようだった。思わず道端で「うまいなーっ!」と声をあげた私。25パタカ、325円ぐらい。ちなみに洋梨もあって、スイカとどちらにするかかなりまよった。雪梨とこちらでは書くんだな、洋梨独特のシャリシャリした食感、たしかに雪のようかもしれない。

 

南屏雅敘

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 『南屏雅敘』はツイッターのフォロワーさんがおすすめしてくださった店。マカオ半島で一番古いカフェだという。昨日夕方に行ったらもう閉店とのことで、せめてもとエッグタルトをひとつ購入したら、おかみさんらしき人が「あげる」ともうひとつおまけしてくれたのだった。コクはしっかりあるけど、やさしい味わい。

 翌日、再訪したいただいたチャーシューと玉子焼きをはさんだサンドイッチのおいしいかったこと……。それぞれ特に凝った作り方をしているわけではないのに、妙なうまさがある。飾らない店内は実にのどかで、時間の流れ方も悠然として。いまも再訪したい一軒だ。朝は超満員と聞く。エッグタルト10パタカ(約130円)、玉子とチャーシューのサンドイッチ(叉焼蛋三文治)、22パタカ(約290円)。サンドイッチって三文治と書くんだな。地域にもよるらしいが三明治と書くところもあるようだ。この店のある通りの名が「十月初五日街」というのもなんだか、素敵だった。

 

張姐記食坊  

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 馬大臣街のあたり、人が食べてるのを見てどうにも通り過ぎることができなかった。甘辛い味つけのビーフン炒め、「七色炒米粉」15パタカ(約195円 )。わりあいあっさりしている。隣の席では近所のひとらしき3人組がこの焼きそば3つに、お粥2つをとってシェアしていた。昼の1時半ぐらい。

 

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  ツイッターを見てくれていた方から「チャンスがあればメニューにある浄腸粉や粽腸を是非食べてみてください。小綺麗なヤムチャでは出さない美味です。お粥もどちらかを試してみてください」とリプライをいただく。

 こういうの、嬉しいですな。早速再訪、店に入るなりおかみさんらしき人が「これ食べな!」とばかりに大鍋を持ってきて見せる。ピータン入りのお粥だった。

 

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  おとなしく従う。

 

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  鶏だしのきいたピータン粥、ずっと飽きずに食べていられる。腸粉、米粉皮を巻いて蒸して甘辛醤油つけただけっぽいのに、なんでこんなうまいんだ? 地元のお客さんが切れることなく来店してくる。夜でもお粥食べる人は多いんだね。小豆粥を食べる人あり、ちまきを食べる人あり、60歳ぐらいの男性は私同様「これ食べて!」とお粥を出されていた。「お、おう……」的に従っていたな。おかみさん、満面の笑み。多分、あの鍋に入ってるぶんを使い切りたいんだろう。などと考えてたら「もっと食べられるね」という感じで再度お粥をつぎ足しされた。お、おう……。

 しめて37パタカ、480円ぐらい。お粥はちゃんと1杯分の値段でした。

 

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  ホテルの近くにあり、いつもにぎわっていた酸辣粉の店。私の住む西川口にも似たような店が数軒あるので、なんとなく「ここで食べなくても、いいか」と通り過ぎていたんだが、明日帰国というタイミングで「やっぱり経験しておきたい」という気持ちになり、入った。本当に途切れることなく地元の人がやってくる。

 

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  まず米麺かサツマイモ粉の麺かを選び、5段階の「大辣・中辣・小辣・微辣・不辣」から辛さを、そしてトッピングを選ぶ。私は米麺、小辣、黄花菜(金針菜)の組み合わせでお願いした。

 か、辛いッ! 辣というよりも粉唐辛子の鼻や器官に来る感じの辛み。微辣にすればよかったな。いやいっそ不辣にしてスープの味をしっかり感じたかった。さらにはなっかなか冷めない(笑)。とにかくむせこまないよう、ゆっくり食べた。辛いのけっこう得意なほうなんだがなあ。ちなみにここ、お水は出ません。慣れてるお客さんはペットボトルの水などきちんと携帯されていた。だんだんと舌も落ち着いてきて、完食。

 アタックの強い辛さで刺激も強かったが、食べ終えて蒸し蒸しした気候の不快さが吹き飛んでいることに気づく。そうか、これは一種の「清涼剤」として親しまれているのかもしれない。そして辛みにも皆だんだんと慣れていくんだろう。

 相席になった30歳前後の男性はピータンを別に頼んでいたな。こともなげに汁をすすっていたが、あれは何辣だったのだろうか。黒のジャージ上下を着たちょっと高橋克典似の二枚目で、「ああ……こういうひとがマカオにいるの、絵になるなあ」なんて思いつつ、辛さで小鼻から噴き出た汗を私は拭いていた。

 

 

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マカオ行くんだ。カレーおでんが名物で人気だから、食べてきたほうがいいよ」 

 マカオによく行く友人が出発前にすすめてくれていた。滞在3日目、最後の食べものとして食す。基本的にテイクアウトして食べるもので、店頭に野菜類や日本でいうところの練り物、モツ類がずらりと並び、選ぶとだしで煮てくれ、最後にカレーソースがかかる。具材は10~20パタカ前後、130円から260円といったところだ。具をあれこれ選べる楽しさは麻辣湯のノリにも似てるなあ。ウニ入りの練り物なんてのもあり、それとブロッコリー、ヒラタケを選んだ。

 カレーうどんの「ぬき」っぽいな、というのが第一印象。いや、うまいよ。おやつというか軽食として楽しい。コク深さとかスパイス感よりも、さらっと食べやすく、「だし×カレー粉」で再現できそうな感じだ。もちろん、店によるだろうけれど。何度も書いてるが蒸し暑いので外で食べる気にはならなかった。ホテルの近くにあったのでテイクアウトして部屋でいただく。

 

 水野仁輔さんの文章によると80年代から存在するようだが、やっぱり詳しいことは分からないよう。

ontrip.jal.co.jp

 

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 ホテルの近くにあった『榮記牛雜』というお店にて。店員のお兄ちゃんは気さくで、いろいろ話しかけてくれる。「台湾から? 韓国?」「いや、日本だよ」「そうなんだ」調理中の様子も見せてくれた。感謝。泊まったホテルのすぐ隣だったので、3日間たえず営業の様子を折々で見ていた。午前中に仕込みを始め、湯気上がる鍋の前で一日中立っている彼ら。なんとも勤勉だった。

 彼らはきょうも"串打ち"に精を出しているのだろうか。休みの日は何するの、って訊いてみたかったな。

 

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 マカオビールで、ひとり乾杯。マカオで独酌する日が来るとは夢にも思わなんだ。マカオビール、香りが華やかでかなり好み。日本でもどこかで買えるだろうか。明日は朝7時にホテルを出て空港に向かわねばならない。帰るだけの日。

 一応、これでマカオ滞在記はおしまい。貴重な機会をくださったKさんに心より感謝申し上げます。

 

 

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マカオ国際空港