白央篤司の独酌ときどき自炊日記Ⅱ

フードライター。郷土の食、栄養や減塩をテーマに記事を制作しています。連絡先→hakuoatushi416@gmail.com 著書に『にっぽんのおにぎり』(理論社)、『ジャパめし。』(集英社)など。メシ通、『栄養と料理』、『ホットペッパー』、農水省広報誌などで執筆中。

高知の旅、2日目。台風の朝、『凪』『たに志』『ノアの方舟』の夜。

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さて、旅の二日目。この日は徳島に向かうつもりでしたが……

 

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そう、台風21号にぶつかってしまいました。

 

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まあ、しょうがないですね。

結局この日はごく一部をのぞいてJRはほぼ復旧せず、長距離バスも全線運休を早々に決めました。タクシーに相談すると「タクシーで徳島駅から高知駅やと…3万いくらか、いや4万ほど見たほうがいいか」とのこと。

 

あきらめました。

現在のホテルに連泊できるか尋ねれば「はい、できます。フロントじゃなくネットからのほうが安いですよ」とアドバイスまで。やさしいなあ。

直前割、なんてのがあるのですね。4千円ちょいで宿泊可能に。さらには徳島のホテルに連絡すると「災害時のキャンセル料はいただきません」とのこと。アグネスホテルさん、ありがとうございました。今度また、お世話になります!

 

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腹を決めれば、あとは前向きに。

幸い、高知市街は早々に暴風域から抜けたんです。そしてみなさん台風慣れしているというのか、各店舗見ていても「台風用シフト」がしっかりしている感じ。JR四国が朝からすべて運休決めたのも英断ですよね。市内を歩いても各店が「臨時休業」または「夜からやります」と昨日のうちに決断しているのがよく分かりました。入り口に土のうを積んでいる店もちらほら。

 

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ホテル近くの公園にいた猫。強風でさぞ怖かったろう…と思いましたが、けっこう落ち着いてました。おまえも台風慣れしているのかい。

昼すぎ12時半ごろ、雨も止んで風もおさまってきたので、ホテル近くのスーパー『エースワン』を散策。

 

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高知名物の菓子パン、ぼうしパンを購入。この「みみ」がおいしいんだ。

このみみだけを食べてあとは残して、小さい頃母によく叱られました(笑)。

 なんて話を、昨日居酒屋で隣り合ったカップルからうかがいましたよ。こういうエピソードが聞けたとき、現地で飲んでてよかったなと思います。いろいろ教えてくれたKさん、ありがとうございました。

いくつか気になったことをメモ。

  • 四万十のセリが売られている
  • 県産キビナゴがたっぷり
  • すりみ(ジャコ、白身、一本釣りうるめ)が豊富にそろう。何を作るのかな?
  • お好み焼、ウスター、タコ焼きソース徳用がドーンと棚に並ぶ
  • だし入りみそ「こじゃんとうまい!」の存在感大
  • カツオの刺身・たたき、やっぱり厚い
  • おかむらの「ゆで卵入り味つけお麩」気になる
  • 徳島のフィッシュカツが売られている

さて、市街をまた歩いてみます。

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ひろめ市場はこの日、台風で早々に休業を決めましたが、近所のスーパーは開いていました。入ってみれば、小さなパン売り場に先の「ぼうしパン」が3種類も。製パン各社から出ているんですが、ニーズの多さを再確認です。拙著『にっぽんのおやつ』でもこのパンのことは紹介しているので、よかったら読んでみてくださいね。

そのほか、ミレービスケットも山積みに。県産のお造り用トビウオも。

 

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しばしホテルに戻って、休息。

 

帯屋町『凪』

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旅先でのたのしみは、ふらふら歩いて気になった店に入ること。今回気になったのが、こちら『凪』(なぎ)さんです。

 

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「たたきエビとイカの春巻き」ってのがいいじゃないの。カウンターもあるのが嬉しい。予約せずとも入れましたよ。

 

結果は……大正解!

 

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日本酒、好みの品ぞろえでうれしいかぎり。各地の酒がありましたが、やっぱり今夜は高知の酒を。土佐市の『亀泉』、熟れた果実をがぶりとやったかのようなしたたり具合、その香りの良さよ。

 

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タコとキュウリと巨峰の土佐酢ジュレがけ。高知だけに土佐酢ですな、素敵な一品でした。土佐酢にブドウ合わせたことなかったけど、いいものだなあ。

 

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ウツボのから揚げ。やわらかくて香ばしくて、実にいいアテ。ゲテモノ的に感じてしまう人も少なくないようですが、体験したら印象変わるはず。きっと広く気に入られると思います。たださばくのに技術がいるんですね。そこがネックか。

 

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お次の酒は大好きな『文佳人』、香美市のお酒です。辛口純米、私の好みの理想形。世の中の多くで思われている辛口イメージとはまただいぶ違うと思いますが、見つけたらぜひお試しあれ。

ちなみにこちらのお店、すべて半合からお願いできました。

今回『文佳人』の蔵、ぜひとも訪ねたかったのですが非公開で、蔵直販売も無しとのこと。残念。

 

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これこれ、たたきエビとイカの春巻きです。みっちりと詰まって、おいしかったなあ。

から揚げと春巻き、お願いしたら一人前で対応してくださったんですよ。初客でもこんなふうに応じてくださるの、うれしいですね。お値段も手ごろで、すべて良心価格。

 

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こちらがご主人、笑顔そのままに人当たりのやさしいかたでした。また高知に来たら再訪させてください。

ごちそうさまでした。

 

しばらく、近所をうろうろ。

 

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焼きとり、フライ、煮込みときて「たたき」ってのが高知ですねえ。

 

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繁華街で、表に貼られたメニューをいろいろと拝見。品書きからはいろんなことが見えてきます。

 

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どろめが食べたかったのですが、入荷がないとのことで残念。まあそりゃそうか。ここは郷土感が濃厚でしたねえ。

 

さて、今回の旅行は高知の呉服店『美馬』のご店主、美馬勇一さんにいろいろとご助言いただきました。いくつかおすすめの店も教えていただいたのですが、そのうちの一軒がこちら。

 

帯屋町『たに志』

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 縄のれんがひっきり無しにゆれる『たに志』さん、お客さんの入りがよかったですねえ。回転も速かった。

 

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カウンターにはおでんがいろいろと。

ピンク色のが、スーパーでの発見メモにも書きました「すまき」です。いわゆる、かまぼこ。

 

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「おでんには必須」と多くの方から教えてもらいました。そのままおやつみたいに食べることもあるそう。名古屋にも似たのがありますね。あちらは「赤帽」という名前だったかな。

隣り合ったKさんというカップルが食べること大好きなかたで、いろいろと高知食についてお話しくださったのも収穫でした。

 

高知のスーパー、惣菜でぶっかけそうめんの小さいパックがよーく売られているんです。そのことが気になって「高知の人、そうめんが好きですねえ」と言ったらご主人が

高知は酒飲みが多いから、翌日あんま食べられんとよ。気持ち悪くてごはん食べられんのんちゃう。そうめんぐらいがちょうどいい。

と言ったのには笑いました。これまた土佐弁聞き取りが正確じゃないと思いますが、お許しください。

 

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 高知の野菜、リュウキュウの酢の物もオーダー。ほぐした焼きカツオも入ってて、高知感さらにアップ。いいアテですな。

 

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リュウキュウ、生だとこんな感じ。サトイモ科の植物の茎なんです。この写真は昨日の『風月』さんで撮ったもの、刺身のツマに使われることも多いですね。

 

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この夜のシメとして、シラス茶漬けを。やさしいダシで、実にうまい…。胃がホッとするなあ。

 

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女将さん、ちょっと女優の桜むつ子さんを彷彿とさせるような。息子さんとおふたりでやられています。なんともなんとも、チャーミングなかたでした。いろいろ高知のこと教えてくださって、ありがとうございました。

 

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『たに志』はこちらの小路にありますよ。

 

またツイッターから素敵なお店を教えてくださったタビトラさんにも感謝です。ありがとうございました!

 

そろそろホテルに帰ろうか…と思いきや「白央さん、ここ好きかもしれない。路地裏のいいお店ですよ」と美馬さんから連絡が。そうとあっては帰れません。おすすめには従わないとね。

 

帯屋町『ノアの方舟

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入ってみれば居酒屋とスナックの中間のような雰囲気、靴を脱いで上がります。和のしつらえでなんとも落ち着いたお店でした。もう40年以上だったかな…の歴史があり、「希望をあらわすイメージで」この店名になったのだそう。キリスト教徒は関係ないようです。河童が七福神にいたずらされてる、なんて楽しいモチーフの日本画が飾られていました。

 

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 こちらが女将さん、実にユニークでさっぱりとした楽しい話術の持ち主。心、一気に寛ぎましたねえ。こういうかたを高知では「はちきん」と呼ぶのかな。ねっとりジットリした感じがなくカラッとしていて、とても話しやすいんですよ。

お母さまが開かれたお店だそうです。もちろん生まれも育ちも高知のこのあたり、食べもののことはもちろん、宮尾登美子さんの話などいろいろと聞かせてくださいました。

 

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お酒はダバダで。

 

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 高知のお座敷遊び、箸拳(はしけん)で使われる箸。実際のやり方を女将さんがレクチャーしてくださいました。

そういえば別のお店で隣り合ったかたに

「高知っていえば、『菊の花』とか『べくはい』とか飲むゲームがいろいろあるようですね。やっぱりあーいうのは特別な宴会だけで、普段の飲みではやらないものなんですか」みたいなことを尋ねたんですよ。

そしたら「いや…やっちゅうよ…」と言葉を詰まらせて苦笑されたの、おかしかったなあ。

「高知でね、先輩とか目上の人がいるときに『飲める』とか『酒好きです』なんて言うたらダメですね。『普通』でもあぶない。飲ませモード入ってきますね」なんて教わったり。最近はそれでもやっぱり現代的にハラスメントに気をつけられているようですが、酒好きが集まってるぶんにはね。

 

 いい夜でした。

美馬さん、そして隣り合ったすべてのかたに心よりの「ありがとう」を。