白央篤司の独酌ときどき自炊日記Ⅱ

フードライター。郷土の食、栄養、暮らしと食をテーマに執筆しています。連絡先→hakuoatushi416@gmail.com 著書に『自炊力』『にっぽんのおにぎり』(理論社)、『ジャパめし。』(集英社)など。メシ通『栄養と料理』『ホットペッパー』などで執筆中。

国立劇場にて『梅笑会』を拝見

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 国立劇場に行ってきました。

中村芝のぶ・市川笑野、両氏による勉強会『梅笑会』昼の部を拝見。久しぶりだなあ…役者さんの勉強会。20年ぐらい前、歌舞伎座はもとより京屋一門の『桜梅会』や大和屋一門の『若草会』なども含め、足しげく歌舞伎公演に通っていた時期があったんです。

あの頃、オタクでしたねえ……私(笑)。

 

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歌舞伎の家に生まれたわけではないおふたり。開催までには並々ならぬご苦労があったことと思います。それこそ入門からの努力の結晶のような会ですよね。

 

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超一流のスタッフが集結。

あたたかい、いい会でした。ひと晩経って思い出して、なんかホロリとします。別に私、関係者でもなんでもないのですが(笑)。すごいことじゃないですか、本当に。

 

 さて番組立ては以下の三題。

 妹背山道行はキャストがすごいですよ。

歌舞伎や日本舞踊では、スペシャルゲストというか特別出演的な存在を“ごちそう”って呼ぶんですが、まさにまさに。

 

感想雑感

 長唄の『男舞』って私は初めて拝見、白拍子の優美な踊り。続いて『藤娘』、最初から片身変わりの衣装で、クドキのあとは藤音頭です。

中村芝のぶさんは、先代芝翫さんのお弟子さん。芝翫さんの『藤娘』は私は観られなかったのですが、ところどころに「ああ、芝翫さんこんなふうに踊りそう…」と感じられるところがあって、沁みました。

 

好きだったなあ、神谷町のたたずまい。

 

『藤娘』のオキについて

あ、それから長唄二題の立唄は杵屋巳津也さん。俳優・山口崇さんのご子息で、長唄界で大活躍なんですよ。以前からその美声のファンだったのですが、聞き惚れました。

『藤娘』のオキ、「若紫に十返りの 花を表す松の藤浪」ではなく「春いつか 暮れて行方も白浪の 立つ風もなき鳰の浦 昔ながらに咲く花の 時に近江の松の藤浪」からたっぷり聞けて嬉しかったですね。

私は長唄さんが良ければこちらのほうが情趣があって好きです。京屋も「春いつか」でやっていたはず。

ちょっと気になったので、長唄界の友人に訊いたところ、

舞踊会ではさらに色んなバージョンがあり、藤娘の本当のオキ「津の国の 浪花の春は 夢なれや…」がある時があったり、三味線ありの「若紫に…」があったり、いきなり「人目せき笠」にいったりする。これが正解、というのはないのかも。

とのことでした。亡くなった勘三郎さんも「春いつか」でやっていたそうです。菊五郎劇団系は「春いつか」なのかな、とも。「津の国の…」は私、聞いたことないのです。聞いてみたいなあ。

 

妹背山道行の感想

さて大喜利、お待ちかねの妹背山道行。

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まず市川笑野さんの橘姫が…良かった。しっとりとして品があって、しかもそれが演技中途切れることがなく。格のある姫でした。ただ一点気になったのが、あるキマりで下がり髪を直したときに一瞬だけ素が見えたこと。残念。やったほうがきれいだけど、ないほうがよかったなあ…と私は思いました。

澤瀉屋はそりゃあ貫禄十分、場内を沸かせます。女ふたりに迫られてどうにもできず困惑の青年…というよりは。簡単に女どもを諫められそうな求女に見えなくもないのですが(笑)、主宰のふたりを立てて神妙に演じられて素敵でした。

なにより怪我からの復帰が喜ばしい。お元気になられたようで、よかった。

そしてお三輪。

『藤娘』でも感じましたが、体の線が本当に少女のそれ。出てきた瞬間、「十七歳のお三輪だ」と思いました。実際に何歳と設定されているわけではないのですが、なんか私はそう直感したんですね。そのぐらいの歳の子が抱きそうな悋気と熱情。歌舞伎に描かれる女の中でもトップクラスの行動力をお三輪は持っています。芝のぶさんのお三輪には、新鮮で独得な説得力が生まれていました。

これ、単にそういうスタイルの人が踊ったからって同等の説得力が出るわけじゃない。芝のぶさんの演技力と舞踊修練と肢体が組み合わさってこそだと思います。

私は今まで先代の雀右衛門、京妙(桜梅会)、玉三郎福助、ビデオで歌右衛門のお三輪を見てきましたが、このキャラクターに「おしゃま」な感じを覚えたのは初めて。

三人手踊りのところ、楽しかったなあ。華やぎましたね。そしてお三輪の引っ込み、なんだか福助さんのパッションと哀感あふれるお三輪が思い出されてならず。

場内、実に沸いておりました。春きもののご婦人もたくさん、まさに盛会。

おめでとうございました。

  

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 国立劇場のそばではもう沈丁花が。