彩の国さいたま劇場へ行ってきました。
先ごろのショパンコンクールで優勝したチョ・ソンジンのリサイタル。
まだ21歳、韓国出身です。
クラシックの音楽会なんて、いつ以来だろう。
とても楽しみに聴きに来ました。
乗り換えで迷ってしまって、焦りましたが10分前に到着。
前から7列目だったかな、ほぼ真ん中の席で、かなりよく表情がうかがえました。
ちょっと、メモとして感想をつけておきます。
きょうは食ネタ、ないんです。すみません。
月がなんとも明るい夜でした。
モーツァルトのロンド イ短調
音楽にも「行間」というものがあると思っています。
しかし、この演奏はそういうものが感じられませんでした。語り過ぎというのか、この曲らしいもの悲しさ、心に爪立てられるような切なさ、寂寥感が表現されず、ちょっと歌いっぱなしの印象。うつくしく弾けているのに何もそんなにペダルをきかさなくとも…。
「モーツァルトはこう弾く」というものを探している途中に思われました。でもそのうち、彼なりの語法をきっと見つけるはず。
シューベルト ピアノソナタ第19番ハ短調
第一音から音楽的確信が全然違いました。若々しい艶と熱情、そして抑制のきいた素晴らしいシューベルトで、興奮しましたよ。この長いソナタをなんというスケールと緊張感、そして彼なりの色彩を持って弾ききったことか。第2楽章の和音の響きのうつくしさが忘れられません。会場の聴衆がときおり「網にかかった状態」になっていると感じました。良い演奏はそういう状態を生み出しますね。
ショパン 24のプレリュード
コンクールでもこの曲に挑んだソンジン、今回も見事な演奏でした。演奏レベルが高くてミスもほとんどなく、美しい演奏なのですが……うーん。
ぜいたくなんですけれども、私にはショパンコンクールで配信された演奏とさほどの違いが感じられなかったんです。
リサイタルなのだし、もう少し遊び心とか、やまっ気を出してもいいのでは…なんて思ってしまうんですね。性格的にそういうタイプではないのでしょうが、24のプレリュードはもう少し燃焼感がほしい。
彼は「うたごころ」で聴かせるタイプではないと思います。それでショパンコンクールの覇者になったのだから、逆にたいしたものですね。
プレリュード第4番など、そんなに響かせずもっと右手をうたってほしい。「雨だれ」でもそうでしたが、彼の関心は旋律よりも総合の響きにあるようでした。
今回いちばん思ったのは「総合力の高さ」です。ピアノを鳴らし、響かせる能力の高さ、ミスの少なさ、安定感、構成力と緊張感のキープ力。
ミスをしないというのはときに冷たく非人間的な印象を与えますが、そういう点がまったくないのは彼自身のキャラクターの良さだと思います。人間的音楽力とでもいうか。
演奏を終えて引っ込むところなど、本当にまだまだあどけないのですよ。中学生ぐらいに見えるときもある。素っ気なさや気取り、変な気負いとも無縁で、いい歳の重ね方をされているなあ…と思いました。ファンはそういうところも含めて彼を愛していると思います。
アンコール、3曲
万雷の拍手、そしてブラボーの嵐。聴衆は気合の入ったファンが多いようで、ちょっと熱狂的な声も多く飛び交っていましたよ。
最初にシューベルトの「楽興の時」第3番、これは自分の肩もみ的な感じで軽くサラッと、それがまたほほえましかったです。
次に「ナガイキョクヲ、ヒイテモイイデスカ?」と語りかけて、また大喝采。ははは、とてもかわいかったです。ショパンの「幻想曲」を弾き出すと会場は「そうきたか!」という感じに。
この演奏がまた素晴らしかった……。深く練られて、完全に曲を手中におさめている演奏で、聞き惚れました。あまりショパンの中では有名ではないこの作品を、なんと美しく彩色し、彼なりの音楽の絵を会場じゅうに広げたことでしょう。
最後に「英雄ポロネーズ」、これも見事でした。左手のオクターブ連打のところの見事さ、抑制感、すばらしかったです。
24のプレリュードが終わって引っ込む際に疲労の色が見えたので心配しましたが、完全に杞憂でした。うーん、音楽的胆力を感じましたね。若くともスタミナのない子がいくらでもいますが、やはりショパコンの覇者は違います。
これからものすごいスケジュールと共に、おとなの世界に組み込まれていくと思います。どんなマネージメントがついているのか知らないけれど、彼の修学を第一に考えてくれるブレインがつきますように。
今はパリでミシェル・べロフについているそう。その成果を聴ける日が楽しみです。