白央篤司の独酌ときどき自炊日記Ⅱ

フードライター。郷土の食、栄養、暮らしと食をテーマに執筆しています。連絡先→hakuoatushi416@gmail.com 著書に『自炊力』『にっぽんのおにぎり』(理論社)、『ジャパめし。』(集英社)など。メシ通『栄養と料理』『ホットペッパー』などで執筆中。

『ふくだ』再訪

 

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 先日、おうかがいして感銘を受けたお店、麻布十番の『ふくだ』さん。

 (そのときの日記です ↓ )

d.hatena.ne.jp

 

 これは毎月1度はうかがいたいなあ…と思い、先月から予約を入れておきました。あらためて日本の旬と、それらの調理法をこのお店に教えてもらいたい、と思ったんです。

 なーんて能書きはさておき、早速この日いただいたものを。

 

 

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 ミル貝とうるい、うどの吉野酢和え。

 なんとも、艶やか。目にも春。

 

 貝をつかった一品は独特のなまめかしさがありますね。ウドの香りのよかったこと。吉野酢は土佐酢に吉野葛でとろみをつけたものだそうです。

 

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 お酒は秋田の『雪の茅舎』山廃純米をそれぞれ冷酒と燗でいただきました。間違いのない酒。

 貝の酢のもの、日本酒の最高の友のひとつだと思っています。

 

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 お椀は、甘鯛の桜蒸し。

 私の写真の下手さが、くやしい。

 フタを開けた瞬間に感じた華やぎが万分の一も表現できていません。

 

 桜の香りをまとった甘鯛の身、味がつまっていて、なんとも結構でした。おいしい魚って皮と身の間にまた別の一層があってそこがおいしい。

 

 利尻昆布をひと晩置き、65度弱で1時間程度煮て、そこに削りたての鰹節を加えるのが『ふくだ』さんのベースの出汁のひき方だそうです。

 このお出汁をね、一度味わっていただきたいのですよ。

 

 先程の吉野酢も、酢の味わいの後に鰹節の香りと味がスーッと立って、実に良かったのです。ご主人が後ろを向いている間に飲みましたとも。

(※多分女将さんは見ていた…)

 

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 クロムツのお造り。

 5日ほど寝かせて、だんだんと周囲を削ぎつつ、育てた味わい。

 噛んでゆくうちに優しい甘みが感じられてきます。

 

 今はとにかく「分かりやすくうま味の強いもの」があふれる中、こういう「静かな本来のうま味」を追求する姿勢に頭が下がります。

 

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 焼きものは鰆を木の芽焼きと柚子塩焼きで。

 2種も味わいを楽しめるなんて嬉しいなあ。これはご主人のサービス精神だと思います。

 

 こちらのお店では皿を温めるときに蒸し器を使われています。いつまでもじんわりと温かい。

 添えられているのはウドのきんぴら、これで嬉しささらにアップ。このきれいな切り方、「板前なんだから当然でしょ」と仰いますな。切り幅と長さが揃っていることの美味しさを再確認しましたよ。

 

 

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 揚げ筍のワカメあん。

 

 味わいの濃い筍をホクホクのアツアツでいただく幸せよ。ワカメディップをつけていただく感覚は面白いものでした。

 ただ、私はワカメは食感が好きなので、これに関してはちょっと好みではなく。なんて、贅沢いっちゃバチがあたるかな。

 

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 さて、ごはんです。

 赤だしの中身はしじみ。十三湖のもの。ご主人に宍道湖のしじみとの味わいの差異をうかがったり、味噌の合わせ方と寝かせ方をうかがったり。

 料理の腕って天性の問題もあるけれど、ある程度より上のひとって、きちんと「理由」があるんですよね。

 やはりすべて相応の工夫と研究をされているからの味ということを、お話していて思いました。いつか、記事にしたいなあ。

 

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 こちらの「お香こ」が、私は大好き。

 

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 菜の花の茎や下の方の葉を酒、みりん、醤油で炒り煮にしたもの。

 

 ごはん、おかわりしてしまいました。

 

 

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 最後の水菓子もシャレていましたよ。

 ブランデー漬けにしたグレープフルーツとあまおうを桜漬を入れたワインゼリーで和えたもの。

 つるり。

 きょうのコースの中に一体どれだけの食感があったことだろう。

 

 

 ご主人と女将さん。

 お二人の篤実なお人柄に包まれていただくお料理は、きょうも得難い思い出となりました。

 親を連れていきたいお店です。

 

 

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 愛育病院の桜。